日本有数の豪雪地帯でウィンタースポーツが盛んな白馬村。
例年であれば12月中旬には大量の雪が降り積もり、各スキー場は多くのお客さんで賑わいますが、2019-20シーズンの年末年始に全面滑走できたスキー場はエイブル白馬五竜&Hakuba47のみ。
過去5年間のうち、4年が雪不足の年になり、特に2019-20シーズンは過去に例がないほどの雪不足です、
各地では、残念なことに1日もオープンできないまま今シーズンの営業を諦めたスキー場もあります。
近年の雪不足は気候変動(地球温暖化)の影響が大きいと言われていますが、今のまま進行すると、約10年後にはスキー場の滑走可能日数が現在の3分の1まで減少してしまうとの研究結果も発表されています。
この危機的状況の中、一般社団法人 Protect Our Winters Japan(POW Japan)は、「スノーコミュニティの情熱を、気候変動問題を解決するムーブメントに変える」を合言葉に、脱炭素社会の実現に向けて様々な取り組みを行っています。
今回は、POW Japanの代表理事を務める小松吾郎さんと事務局長の高田翔太郎さんに、活動内容や手応えなど色々とお話しを伺ってきました。
小松さんは現役のプロスノーボーダー。
日本の冬山をフィールドに活動してきたからこそ、年々雪が減っていく現状を目の当たりにしてきました。
ウィンタースポーツを愛する人たちにとって大切な雪を、これからも守るために。白馬村から全国へ。
みなさんも、気候変動について一緒に考えていきましょう。
「POW Japan」とは?
ーーPOW Japanとはどのような団体ですか?
小松さん「POW Japanは、2007年にアメリカのプロスノーボーダーJEREMY JONESが立ち上げた『POW』が母体で、2019年2月に正式に活動を開始しました。」
高田さん「僕らの活動は本当に多岐に渡りますが、2つの大きな軸があります。1つは、個人や企業に対して気候変動危機を啓発していき、賛同してくれる仲間を増やすこと。2つ目は、賛同してくれた仲間たちの声を自治体やスキー場に届けることで、仕組みや運営方法を変えてもらえるよう呼び掛けること。気候変動は個人や1つの企業の力だけでは解決できないので、社会の仕組みを変えられるように取り組んでいます。」
ーースキー場に対してどのような働きかけをしたんですか?
高田さん「白馬エリアのスキー場関係者を招いて勉強会を開催したり、個別にプレゼンテーションさせてもらっています。」
ーー反応はどうですか?
高田さん「最初は『POWてなに?』みたいな反応でしたが、メディアで取り上げられることが増えるにつれて、好意的に受け入れてもらえるようになってきましたし、各々ができることを模索し始めてくれていると感じています。」
POW Japanが活動を開始して1年、「手ごたえ」と「課題」
ーー正式に活動を開始して1年経ちましたが、手応えはいかがですか?
小松さん「雪不足の年が続いたこともあり、白馬村や大町市の人たちは、POW Japanに賛同して気候変動に危機感を持ってくれた人が多いと思います。」
高田さん「色々なタイミングが重なった1年でした。白馬村が全国の自治体で三番目となる気候非常事態宣言を表明したり、白馬のスキー場がCO2削減の具体的な数値目標を掲げました。我々だけの力ではありませんが、そのような動きは2022年までのビジョンとして掲げていたので、想定よりも速いペースでカタチになったと手応えを感じています。」
ーー手応えを感じた部分がある一方で課題はありますか?
小松さん「白馬エリアでは順調に活動できているけど、妙高とか北海道にいるスノー仲間たちの間では『危機感はあるけど、何をしたらいいの?』という意見が多い。だから、白馬と同じように、他のエリアにも活動を広げていく必要があると感じています。」
私たちにできることは?
ーー個人で今日からできる取り組みはありますか?
小松さん「個人で簡単にできることは、実はたくさんあります。パッと思いつくことだと、車に乗る回数を減らして公共交通機関を利用する・車移動の際はできるだけ相乗りをする・ハンカチを使う・マイバックやマイボトルを使う、とか。あと、自然エネルギーの電力会社に切り替えるのはすごく効果的。」
高田さん「自然エネルギーに切り替えるのは、実はすごく簡単だし、契約プランによっては、大手電力会社よりも安くなる場合があるからオススメですよ。」
また、海外から輸入されたものや季節外れの食材は、流通の過程でたくさんの二酸化炭素を排出するので、可能な限り地元のものや旬の食材を選ぶようにするのも効果的なんだとか。
高田さん「自宅に太陽光パネルを取り付けたり、電気自動車の購入はすごく効果があるけど、初期投資にお金がかかるのでハードルが高いと思います。『食』を見つめ直すのは、身近な生活の中で楽しみながら取り組めるアクションの1つです。」
POW Japanのゴール
ーーお二人が考えるPOW Japanのゴールはなんですか?
小松さん「全員が『自然を守りながら生きていこう』と思ってくれれば、気候変動の問題は解決すると思うんです。だからまずは白馬村から、そして全国にこういったマインドを普及させていくことが当面の目標です。」
高田さん「POW Japanが必要なくなった状態が究極の理想。誰かに言われなくても各々が地球や環境のことを考えて行動できることがゴールですね。」
気候変動解決のカギを握っているのは、エネルギーの脱炭素化
温室効果ガスの中でも、その影響が最も大きい二酸化炭素。その多くは発電や交通、また工場などの生産活動における化石燃料の消費によって排出されています。過去100年以上の間、化石燃料は私たちの文明にとって大きな役割を担ってきました。しかし、気候危機を回避するには化石燃料の消費を減らし、よりクリーンなエネルギー源へとシフトしなければなりません。そして、私たちはそれぞれの生活を見直し、無駄をなくしていく必要があります。だからと言って、経済成長を鈍らせたり、寒さに凍え、遠い道のりを歩き続けたり、極端な我慢や負担を強いるような生活を選ぶ必要はありません。エネルギー効率を高める省エネや自然エネルギーへの転換していく脱炭素化の技術は確立されているので(今後、ますます発展していくでしょう)、持続的な社会を選ぶ意思と行動が今求められています。
二酸化炭素を排出する化石燃料の中でも、石炭は天然ガスの約2倍の二酸化炭素を排出します。また、石炭火力発電所は気候変動の問題だけではなく、PM2.5や水銀の拡散を背景にする大気汚染による健康被害の問題も抱えています。そういった背景から化石燃料関連企業から投資を引き上げるダイベストメントも活発になり、世界的な脱石炭の流れは加速していて、G7のフランス・イギリス・カナダや他のEU諸国、アメリカの複数の州では、2030年までに石炭火力発電所の廃止を宣言しています。一方、日本では35基の新設計画(2018年時点)が進んでいて、これほど多くの新設計画を予定しているのは、先進国でも日本だけです。ただし、世界的な脱炭素化の潮流と熱心な市民活動の影響もあり、2018年から2019年にかけては千葉市蘇我地区や千葉県袖ケ浦市の計画中止が発表されるなど、明るい兆しも見えています。
気候変動についてもっと詳しく知りたい方は、POW JapanのWEBサイトをご覧ください。
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今回取材場所を提供してくれたのは「白馬ノルウェービレッジ」。
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