白馬の春──それは雪の消えゆく山肌に、静かに浮かび上がる“模様”との出会いの季節です。
「雪形(ゆきがた)」とは、積もった雪が春の陽射しで徐々に溶けていく過程で、山肌に現れる動物や人、農具などの模様のこと。
首都圏ではあまり馴染みがありませんが、白馬では古くから田植えや種まきの時期を知る目印として親しまれてきました。

白馬村の山々
白馬エリアには、大小合わせて10個以上もの雪形があり、春の風物詩として地元の人々にも愛されています。
中でも、特に知られている代表的な5つをご紹介します。
五竜岳の「武田菱」

五竜岳の「武田菱」
五竜岳の山頂直下にくっきりと現れるのが、戦国武将・武田信玄の家紋として知られる「武田菱」。
その形の明瞭さから、雪の多い厳冬期でも見えることがあり、雪形の中でも認知度は抜群。
「御菱(ごりょう)」と呼ばれていた時代もあり、山名「五竜岳」の由来とされる説も存在します。
現在では「エイブル白馬五竜」や「白馬五竜高山植物園」のロゴにも使われているほど、この地域のシンボルになっています。
杓子岳の「不死鳥(フェニックス)」

杓子岳の「不死鳥」
杓子岳の中腹に現れる大きな模様。
それが「不死鳥」です。
頭が左下、羽と胴体が右上にあり、空から急降下する瞬間を思わせるその姿は、見る者に威圧感を与えます。
少し抽象的な形ではありますが、知っていれば比較的簡単に見つけられる大雪形です。
白馬岳の「雄馬」

白馬岳の「雄馬」
白馬岳の山頂直下にある「雄馬」は、地形的に見づらいため、あまり注目されていない隠れた存在。
それでも、地域にとっては重要な雪形のひとつ。
雄大な白馬岳にふさわしい名を持っています。
白馬岳の「代掻き馬」

白馬岳の「代掻き馬」
「代掻き馬(しろかきうま)」は、白馬の雪形の中でも最も有名で、地名「白馬(はくば)」の由来とも言われる存在。
斜面を力強く駆け上がる姿で、頭は左、尻尾は右にあります。
この模様が現れると、地元では「そろそろ田んぼの準備を始めよう」と農作業をスタートする目安にされてきました。
「白馬」という地名についても、「代掻き馬」が「しろうま」→「はくば」と転じた説や、地図製作時の誤記による説など、興味深い説が複数存在します。
小蓮華山の「種まき爺さん・婆さん」

小蓮華山の「種まき爺さん・婆さん」
小蓮華山では、「種まき爺さん・婆さん」と呼ばれる2つの雪形が見られます。
左側がカゴを背負った右向きの「爺さん」、右側が左を向いた「婆さん」。
ふたりが向き合って種まきをする姿は、春の農村風景そのもので、見ているだけでどこかほっこりする雪形です。
おわり
白馬には他にも、大小様々な雪形が点在しており、北アルプス全体では約30種、全国では約300種もの雪形が存在すると言われています。
中でも、これだけ多くの雪形を一望できるのは白馬だけ(とも言われています)。
春から初夏にかけて、自然が描く壮大なアートを探しに、ぜひ白馬の山々を見上げてみてください。