冬になると、バックカントリーでの遭難事故が報じられ、「なぜ禁止されている場所に入ったのか」「ルール違反者の救助は必要なのか」といった容赦ない批判的な意見がネットで飛び交います。
しかし実際には、こうした声の多くが“誤解”に基づいていることをご存知でしょうか。

バックカントリースキー・スノーボードの実態と、正しい理解について紹介
特に混同されがちなのが、「スキー場の閉鎖区域」と「バックカントリーエリア」の違い。
この記事では、白馬エリアを事例に挙げながら、バックカントリースキー・スノーボードの実態と、正しい理解について紹介します。
バックカントリーと閉鎖区域の違い

バックカントリーエリアをハイクアップするパーティー
まず押さえておきたいのは、「バックカントリー=禁止された場所」ではないという点です。
バックカントリーとは、スキー場の管理区域外に広がる自然の山岳地帯のこと。
このエリアへの入山は、夏山登山と同じく原則自由で、装備や技術、知識を持っていれば滑走しても違法ではありません。

白馬八方尾根スキー場の境界
一方、スキー場の「閉鎖区域」や「境界線」はロープや看板で明確に区切られており、立ち入り禁止。

白馬八方尾根スキー場のコースマップ(出典:白馬八方尾根スキー場)
閉鎖区域は、雪崩やクラックのリスクが高く、安全確保のためにスキー場が責任を持って制限している区域です。
つまり、「バックカントリー」と「閉鎖区域」はまったくの別物であり、ニュースやSNSなどで混同されていることが誤解の原因になっています。
白馬の事例:登山口から正しく入山するというルール

八方尾根スキー場の山頂にあるバックカントリーゲート(登山口)
国内でも屈指のバックカントリースポットである白馬エリアでは、明確なルールがあります。
白馬エリアには、八方尾根、白馬五竜、栂池高原、白馬乗鞍、白馬コルチナなど複数のスキー場があり、その山頂付近にはバックカントリーゲート(登山口)が設けられています。

バックカントリーゲートをくぐる前に、さまざまな対策を講じる必要がある
滑走者はこのゲートを通って入山し、
- ビーコン・プローブ・ショベル等の携帯
- 登山届の提出
- 気象・雪崩情報のチェック
といった対策を講じたうえで滑走を楽しみます。
このような行動は地域や山岳関係者との合意のもとで認められており、決して禁止行為ではありません。
白馬のバックカントリー文化と地域の取り組み

山岳ガイド「山遊びBonbory」の西野入 洋良さん(右)
白馬エリアには、100年以上の歴史を持つ山岳ガイド組織の他、複数のガイドチームが存在します。
さらに、バックカントリーエリアを舞台とした国際大会「フリーライドワールドツアー(FWQ)」の開催地としても知られています。
特に海外からのスキーヤー・スノーボーダーからの評価が高く、「ディープパウダー × アルパイン地形」という独自の魅力が、多くのリピーターを惹きつけています。

八方池や唐松岳へと続くルート
また、「HAKUBA VALLEY Safety Tips」という独自の安全指針を地域全体で共有し、登山者や滑走者に安全な行動を呼びかけています。
これは、バックカントリーを単なる“自由な遊び場”ではなく、地域の重要な観光資源として持続可能な形で守っていこうという姿勢の表れです。
実際のルール違反はごく少数

バックカントリーエリアに出る準備をする滑走者
ニュースでは、遭難者が「コース外に出た」と報じられることが多く、それが“ルール違反”かのように受け取られがちですが、ほとんどの場合は正規のルートから登山として入山しています。
逆に、明確なルール違反とは「スキー場のロープを越えて閉鎖区域に侵入する行為」ですが、これはごく一部のケース。
多くのバックカントリー愛好者は、知識・装備・ルールを持って安全に行動しています。
用語の使い方とメディア報道の問題
「コース外で遭難」といった曖昧な報道が、誤解を生む原因のひとつになっています。
実際は「バックカントリー」と「閉鎖区域」では意味が大きく異なるにも関わらず、混同された報道が多く、正しく伝わっていないのが現状です。
そのため、遭難事故が起こるたびに「またルール違反か」と一括りにされ、バックカントリー滑走者全体への偏見が助長されてしまいます。
メディアが正しい用語を使い、バックカントリー滑走が禁止されていないことを伝えることは、一般の理解を深め遭難者を誹謗中傷から守るうえでとても重要です。
まとめ:正しい知識と理解が安心につながる

バックカントリーへの正しい知識と理解が安心につながる
バックカントリー滑走は、自由で魅力的なアウトドアアクティビティであり、白馬にとっては地域の大切な観光資源になっています。
「自己責任」とは、準備も含めて自分でリスクを取るという意味であり、正しく知識を持ったうえでルールを守れば、誰でも楽しめるものです。
逆に、無知や誤解からくる批判が続くと、文化としてのバックカントリーが成り立たなくなってしまいます。
今後は、報道やSNSでも正しい言葉で語られ、理解が進んでいくことを願っています。
そして、私たちも「禁止されてるんじゃないの?」と決めつける前に、まずは一歩、正しい知識を持つことから始めてみませんか。